介護業界の人材不足が進む原因は何なのでしょうか?人口の約30%が高齢者となる2025年が迫る中、介護事業所や施設ではどのような対策を取るべきなのでしょうか?今回はまず介護業界の人材不足の現状がどのようなものであるかについて解説します。そして、人材不足の原因と解決策を4つずつ具体的に紹介します。また、団塊の世代が75歳以上に突入する2025年問題に向けて政府が打ち出した政策や今後の将来予想についても触れていきます。
介護業界の人手不足の現状
以下のグラフは介護サービスに従事する従業員の人材不足感を調査したものです。以下のグラフからもわかるように訪問介護における人材不足が特に顕著で、全体的にみても不足感は60%を超えています。
公益財団法人介護労働安定センター -令和元年度「介護労働実態調査」の結果
全職業平均と介護分野の有効求人倍率を比較すると、約2倍以上も介護分野の有効求人倍率が高いです。また、以下のデータからもわかるように、東京都・愛知県で人材不足が特に深刻です。地域ごとで倍率に大きな差はありますが、日本の高齢化社会を考えると今後も更に介護業界で人材不足が加速すると考えられます。
これらの人材不足が原因で年々60歳以上の介護労働者の割合が増えています。しかし、介護の業務は入浴介助や移乗介助などの身体介護や生活リズムが崩れる夜勤での勤務など体力的な負担が伴います。そのため、これらの負担はサービス利用者と介護労働者の両方にとって命の危険につながる可能性があります。
これらの業務は出来るだけ体力のある人材が行うのがベストですが、介護業界は深刻な人材不足であるため対処できないのが現状です。
公益財団法人 介護労働安定センター -令和元年度「介護労働実態調査」の結果
このような人手不足の原因の1つとして介護職の離職率の高さが挙げられます。以下のデータからもわかるように離職率は経年で比較すると減少傾向にはありますが、依然として15.4%と高い数字になっています。この数字は他の業界と比較しても高く、介護業界の改革が必要であるといえます。
では、どの点が離職率の高さ、更には介護業界の人手不足に繋がっているのでしょうか。
公益財団法人 介護労働安定センター -令和元年度「介護労働実態調査」の結果
介護業界の人材不足の原因
介護業界の人材不足には大きく分けてこれらの4つの原因があると考えられます。
・少子高齢化
・賃金が低い
・人間関係
・評価制度
少子高齢化
先ほども少し触れましたが、介護業界の人材不足の原因の一つは日本社会の少子高齢化です。以下のグラフにもあるように、すでに現状として少子高齢化は進んでいますが、今後さらに深刻になる予測がされています。また、2070年には65歳以上の割合が約40%になる見込みで、介護業界の需要がひっ迫すると考えられます。
賃金が低い
介護業界の人材不足の原因、2つ目には賃金の低さが挙げられます。「2021 年6月度「定期賃金調査結果」の概要」によると全産業の平均月給は39万1408円です。それに比べて介護職員の平均月給は23,5900円で、全産業の平均よりも約8万円少ない結果になっています。賃金が低いうえに、精神的にも肉体的にもハードな仕事が多いため人材不足に繋がっていると考えられます。
介護業界の賃金が低い理由は大きく分けて3つあります。
・介護事業所の赤字率が高い
平成29年度、介護事業所の約20%、小規模多機能型住宅支援事業所の約40%の収支が赤字です。そのほかの介護施設も20〜45%赤字で、そもそも従業員に給料を払えないという事態が発生しています。また、これらの状況からたとえ赤字の事業所でなくても経営の安定化のために内部保留する経営者が多く賃金に反映されにくいという背景があります。
・介護保険制度による制限
介護施設は介護保険が適用されるサービスをすると国から介護報酬をもらうことができます。しかし、利用者の人数によって働くことのできる人数、利用者の要介護状態のレベルによってもらうことのできる報酬額も決まっています。そのため、人員削減などの企業努力が難しく、賃金を上げることがなかなかできない現状にあります。
・非正規職員が多い
介護業界はパートやアルバイトといった非正規雇用者の割合が高いです。なぜなら介護業界には資格や経験がなくても働くことのできる業務が多くあるためです。このように労働時間が短く給与が比較的低い非正規雇用者が多いことも平均賃金の安さにつながっています。
人間関係
介護業界では多くの人とコミュニケーションを取る必要があるため人間関係のトラブルに巻き込まれることが多いです。以下のグラフにもあるように、約20%の人が「職場の人間関係に問題があったため」という理由で介護職を離職しています。例えば、利用者のわがままな態度や暴言などに対して対処しなければならないケースが頻繁にあります。また、利用者のご家族からのクレームに対処しなければならないケースもあります。そして、それらのストレスと労働過多により現場スタッフ間の仲が悪くなるという悪循環に陥ってしまうケースまであります。
これらのことから離職率の高さにつながり、介護業界全体の労働力不足にまで繋がってしまうのです。
評価制度
大きめの介護事業所や施設では既に導入が進んでいますが、評価制度が整っていないことも人材不足が進む原因です。介護業界で評価制度を整備しにくい原因として業務内容を数値で評価しにくい点が挙げられます。利用者へのサービスは臨機応変な対応が必要で、評価のポイントを制定するのが非常に難しいです。また、人材不足から介護業界は多忙であり、中小の介護事業所や施設は特にそれらに割くリソースが足りないことも原因の1つとして考えられます。
ではこれらの問題を解消し、人材不足を抑制するためにはどのような方法が考えられるでしょうか。介護事業所や施設が取るべき具体的な解決策について解説します。
介護業界の人材不足の解決策
介護業界の人材不足には大きく分けてこれらの4つの解決策があると考えられます。
・労働環境・処遇を整える
・外国人人材の受け入れ
・介護福祉士資格取得の推奨
・採用手法にこだわる
労働環境・処遇を整える
賃金が低く労働過多である環境を変え、働きやすい環境を整えることは離職率の低下につながります。そのためには業務の効率化が必要です。
その一例として、利用者の健康測定やシフトの管理などの作業にITツールを導入することが挙げられます。近年はAIなどの登場によりこれらのITツールは更に進化する見込みがあるため、労働環境の改善のためにこれらを導入することは良い解決策になります。
また、入居者を10名程度に振り分け、1つのユニットとして担当者が固定で介護する「ユニットケアの導入」も1つの選択肢です。この新しいユニットケアという介護方法はサービス利用者1人1人の生活を尊重できるメリットに加えて、介護職員の業務効率化やストレスの抑制にも繋がります。
処遇に関しては、人事制度の整備が第一におこなうべき解決策です。介護業界の業務は上記でも説明したように数値で評価しにくいため、第三者からの定性評価が必要です。業績や能力、勤務態度などの評価項目を設け、自社にあった制度を整えます。そうすることで、仕事に対するモチベーションややりがいが沸き、人材の定着を促せられます。
外国人人材の受け入れ
現在、介護業界の人材不足を解消する方法として注目を浴びているのが「外国人人材の受け入れ」です。在日外国人の人口は右肩上がりで増えており、日本人の介護従事者をなかなか採用できない事業所や施設で外国人人材を採用する流れができています。また、令和5年7月より厚生労働省が「外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会」を設置していることからも外国人人材が介護業界の人材不足を解決するうえで重要な要素であると考えられます。意欲的でまじめに働いてくれる人材が多く、日本語でのコミュニケーションを苦としない人材も一定数存在します。
上記の令和5年に開かれた「外国人人材の業務のあり方に関する検討会」については詳しくはこちらの記事で解説しています。
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介護福祉士資格取得の推奨
介護福祉資格を取得してもらうことでシフトの選択肢が増え、労働環境を改善できます。また、国家資格である介護福祉資格を取ることで、賃金の増加やモチベーションアップに繋がり介護という職業を長く続けてもらいやすくなります。
採用手法にこだわる
事業所や施設によってニーズのある人材は様々です。例えば、「資格や経験がなくてもいいから、とりあえず人手が欲しい」というケースや「現場をマネジメントできるような経験豊富なベテランを採用したい」というケースがあります。介護業界はなかなか人手を集めにくいため、自社のそれぞれのニーズに合わせてどの採用方法がベストかを判断する必要があります。また、自ら積極的に求人メディアや人材紹介会社に成果を出してもらうように働きかけることも大切です。求人メディアや人材紹介会社が一度に抱えている求人は何千、何万件にもなるため埋もれてしまわないよう、任せすぎないことも大切です。
介護人材確保のための政府政策
政府もまた、介護人材の不足を深刻に捉え様々な対策を打ち出しています。
・離職した介護人材の呼び戻し
・離職防止・定着促進
・新規参入促進
これらは厚生労働省が介護人材の確保のために打ち出した3つの柱です。
「離職した介護人材の呼び戻し」
・介護業界離職者向けに再就職するための準備金の貸付をする制度の発足
その後2年間働き続ければ準備金の返済は免除されます。ただし、1年以上介護職員としての経験が必要です。
・「離職した介護職員の届け出」を受けるシステムの新設
福祉人材センターにて、ニーズに合った求人情報を提供することで介護職員の再就職の支援をします。
「離職防止・定着促進」
・保育施設の新規開発・整備支援
結婚や育児で介護職を離職しなければならない人向けに、保育施設を開設します。また、子育てを支援するために代替員のマッチングなども行い離職を抑制します。
・介護職の将来性向上のための施策
介護福祉士を目指すための研修の期間は代替要員の経費支援をします。その他にもキャリアアップのための医療的ケアの研修機会を増やすことで介護職への将来性を感じてもらい定着を促進します。
「新規参入促進」
・介護職を目指す学生を支援するために学費の貸付を行う制度の発足
卒業してから一定の期間までに介護業界への就職をし、5年間働き続ければ返済は免除されます。
・介護ボランティアをしている中高年齢者(50~64歳)に対して、介護職につくための研修の実施
働く意欲のあるボランティアに対して基礎知識の学習ができる研修を提供します。ボランティアセンターや福祉人材センター、シルバー人材センターと連携して介護業界への参入促進を進めます。
介護職員不足の将来予測
2025年は日本において第一次ベビーブームが起きた時期に生まれた団塊の世代が75歳以上になる年です。さらに前期高齢者である65歳以上の高齢者数を追加すると3,677万人となり、人口の30.3%が高齢者になります。この問題は2025年問題と呼ばれており、介護業界にも多大な影響を与えると予測されています。
厚生労働省の発表資料「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」
今回解説したような介護業界や政府の人材不足対策により介護職につく人数は年々増加しています。しかし、それ以上に要介護者の数が増えているため介護職人材の供給は全く追い付いていません。厚生労働省によると2025年度には約32万人、2040年度には約69万人が不足すると予測されています。特に東京や大阪などの都市部で介護職の人材不足は深刻になる見通しで、東京では2024年には約30,000人、2040年には約72,000人が不足すると予測されています。
既に2019年時点で特別養護老人ホームへの入所待機者(要介護3〜5)は29.2万人を超えていることから、今後さらに介護難民が増加する見込みです。
まとめ
今回は介護業界の人材不足について解説しました。2025年問題から更に加速すると予測されている人材不足に私たちはどのように対処していくべきなのでしょうか。解決策で挙げた離職の抑制や政府が促進している外国人人材の受け入れ導入が今後カギになることは間違いないでしょう。
介護業界の人材不足を「外国人採用」で解決するなら、特定技能「介護」が1つの選択肢になります。
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