ロシア侵攻の影響で、多くのウクライナ人が世界各地に居を移さざるを得ない状況が生じ、難民に関心が集まっています。実際、難民を受け入れ、住まいや仕事を提供したいと考える企業も多くなっています。では、日本で難民を受け入れる場合、どのような手続きを踏めばよいのでしょうか。日本で難民申請しても認定されることが少ない理由についても取り上げます。
そもそも難民とは
難民とは、迫害や紛争などの理由で故郷を離れ、国外に避難し、そこで保護を求める人々のことを指します。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、難民を以下のように定義しています。「自国で迫害や紛争、暴力などの脅威にさらされ、生命、自由、人権を守ることができない者が、国外に逃れ、自分たちの安全を確保することを余儀なくされた者」です。
難民の定義や実態について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
2023.03.06
難民とは?迫害や紛争から逃れる人々の現実と国際社会の取り組み
難民問題は、現代の世界における重要な人道問題の一つです。迫害や紛争などの原因によって故郷を離れ、新たな生活を求めて移動する人々が増え続けています。国際社会では、彼らを保護するためにさまざまな取り組みがなされています。本稿では、難民とは何か、難民になる人々の実態、国際社会における難民保護の歴史と現状...
日本の難民認定が厳しい理由
日本における難民認定は、統計データによっても証明されているように、他国に比べて非常に稀なものです。具体的に言えば、2022年に法務省が公表した情報によれば、カナダや英国では認定率が60%以上であり、フランスでも17%を超えています。一方、日本の難民認定率はわずか0.7%に過ぎません。
(出典)日本の難民認定はなぜ少ないか?-制度面の課題から | 認定NPO法人 難民支援協会
この難民認定が少ない現象にはいくつかの理由が考えられます。一つは、認定基準にあります。日本は国際的な協力と難民の人権保護に取り組むために難民条約に署名し、1981年に加盟しました。難民条約は具体的な基準を設けておらず、その解釈は各国に委ねられています。そのため、国や地域によって解釈が異なり、同様の状況でも認定される国とされない国が存在します。日本は難民条約を厳格に解釈しているため、多くの難民申請が認められないとされています。
別の要因として、申請手続きに関する問題が挙げられます。申請者は自身が難民であることを証明する機会がありますが、難民にとって公平な手続きが必ずしも行われていないと指摘されています。例えば、証拠書類は日本語で提出が要求され、面接の際には母国語や公用語以外の通訳が付くことがあり、コミュニケーションの障壁が生じることがあります。さらに、不認定の理由が不透明であるため、異議を申し立てる手続きが難しいという課題も存在します。
難民認定の低さは、難民問題への一般の関心の不足とも関連している可能性があります。難民問題に対する意識が高まらないため、政治的な議論や難民支援の動きが限定的であるとされています。個人や企業として、まずは難民問題に関心を持つことが重要かもしれません。
世界の難民に対する態度
日本は、世界の国々と比較して、難民認定率がかなり低いことが前述からご理解いただけたと思いますが、ここからは、「難民」に対する世界の人々の考えや態度を紹介していきます。
イプソス(IPSOS)が2023年6月に公開した『WORLD REFUGEE DAY Global attitudes towards refugees』をもとに、世界の人々の難民に対する態度を紹介していきます。
この調査の対象となった29か国は、以下です。
・ニュージーランド
・スペイン
・イギリス
・スウェーデン
・カナダ
・メキシコ
・アルゼンチン
・ブラジル
・オランダ
・南アフリカ
・オーストラリア
・コロンビア
・ペルー
・タイ
・イタリア
・アメリカ
・ポーランド
・チリ
・フランス
・ドイツ
・日本
・インドネシア
・マレーシア
・ベルギー
・ハンガリー
・インド
・トルコ
・シンガポール
・韓国
戦争や迫害による難民の受け入れについて
世界の難民に対する態度としては、調査対象となったすべて国(29カ国)において、50%以上の指示を受け、戦争や迫害から逃れる糸人(難民)は、他国に避難できるようにすべきという意見で一致しています。
世界平均の回答としては、74%の人々が他国に避難できるべき(賛成)と回答しているのに対して、日本の賛成の回答は、73%となっており、ほとんど世界平均と変わらない数値です。
【質問】戦争や迫害から逃れるために、自分の住む国を含む他国に避難することができるべきですか?
【回答】世界各国の回答
賛成(他国に避難できるべき) | 反対(他国に避難できるべきではない) | その他 | |
世界平均 | 74% | 20% | 6% |
ニュージーランド | 87% | 10% | 3% |
スペイン | 85% | 13% | 2% |
イギリス | 84% | 11% | 5% |
スウェーデン | 84% | 13% | 3% |
カナダ | 84% | 12% | 4% |
メキシコ | 82% | 14% | 4% |
アルゼンチン | 80% | 14% | 6% |
ブラジル | 80% | 15% | 5% |
オランダ | 80% | 17% | 3% |
南アフリカ | 80% | 17% | 3% |
オーストラリア | 79% | 16% | 5% |
コロンビア | 77% | 18% | 5% |
ペルー | 76% | 22% | 2% |
タイ | 75% | 20% | 5% |
イタリア | 75% | 21% | 4% |
アメリカ | 75% | 14% | 11% |
ポーランド | 73% | 16% | 11% |
チリ | 73% | 24% | 3% |
フランス | 73% | 20% | 7% |
ドイツ | 73% | 21% | 6% |
日本 | 73% | 19% | 8% |
インドネシア | 71% | 26% | 3% |
マレーシア | 70% | 25% | 5% |
ベルギー | 70% | 24% | 6% |
ハンガリー | 63% | 32% | 5% |
インド | 61% | 24% | 15% |
トルコ | 61% | 35% | 4% |
シンガポール | 55% | 32% | 13% |
韓国 | 55% | 37% | 8% |
(参考)Global attitudes towards refugees – June 2023
すでに自国にいる難民の継続的な滞在について
現在、自国に住む難民の持続的な滞在についての意見は、多くの人々から支持されています。
しかし、今後、より多くの難民を受け入れるべきかどうかについては賛否が分かれています。
マレーシアとトルコは例外で、難民を強制送還し、これ以上の入国を認めないという意見が多数を占めている。全体的に、これ以上難民を受け入れるかどうかについてのコンセンサスはあまり得られていないのが現状です。
日本においては、50%以上の人が現在日本国内にいる難民をそのまま滞在させ続け、これから難民が増えることにも賛成しています。
【質問】
あなたの国の難民について自国の政府が何をすべきかについて、あなたの意見を最もよく反映しているのは次のうちどれですか。
①現在、自国にいる難民は滞在させるが、いま以上の入国は認めない。
②現在、自国にいる難民を滞在させ、いま以上の入国を認める。
③現在、自国にいる難民を強制送還し、いま以上の入国を認めない。
【回答】世界各国の回答
①現在、自国にいる難民は滞在させるが、いま以上の入国は認めない。 | ②現在、自国にいる難民を滞在させ、いま以上の入国を認める。 | ③現在、自国にいる難民を強制送還し、いま以上の入国を認めない。 | |
世界各国平均 | 40% | 41% | 19% |
タイ | 56% | 36% | 9% |
ペルー | 54% | 21% | 25% |
韓国 | 54% | 34% | 12% |
チリ | 53% | 23% | 24% |
南アフリカ | 52% | 28% | 20% |
コロンビア | 52% | 37% | 12% |
メキシコ | 50% | 40% | 10% |
日本 | 50% | 39% | 11% |
シンガポール | 49% | 27% | 25% |
アルゼンチン | 45% | 48% | 7% |
オランダ | 45% | 41% | 14% |
ベルギー | 41% | 35% | 24% |
フランス | 39% | 43% | 18% |
インドネシア | 39% | 38% | 24% |
スウェーデン | 39% | 42% | 19% |
ハンガリー | 37% | 40% | 23% |
イタリア | 34% | 51% | 15% |
ドイツ | 34% | 45% | 21% |
マレーシア | 34% | 15% | 52% |
オーストラリア | 33% | 55% | 12% |
ポーランド | 33% | 56% | 11% |
カナダ | 33% | 60% | 8% |
アメリカ | 32% | 51% | 17% |
イギリス | 32% | 54% | 14% |
トルコ | 32% | 9% | 59% |
インド | 31% | 37% | 32% |
ブラジル | 30% | 63% | 7% |
ニュージーランド | 27% | 68% | 4% |
スペイン | 27% | 65% | 8% |
(参考)Global attitudes towards refugees – June 2023
難民が日本で住むための手続きとは?
国と国とが地続きのヨーロッパやアメリカなどと異なり、島国である日本では、これまで難民は身近な存在ではありませんでした。そのため、どのような人が難民となるのか、明確に理解していない方も少なくないので、まずは定義を理解することから始める必要があるかもしれません。難民とは、人権や宗教、国籍に加え、政治的な意見や特定の社会集団に属するという理由で、自国から迫害を受けたり、受ける恐れがあって、他国に逃れた人のことを言います。難民の多くは発展途上国出身ですが、近年は国同士の戦争や、地域紛争などによっても難民が発生しています。
難民が日本で住むための手続きについて
難民が日本で住むには、難民申請が必要になります。難民申請は、法務省の入国管理局で手続きします。難民認定の申告書を入国管理局に提出し、入国審査官との面接が行われ、そののちに認定の可否が示される流れになります。難民に認定された場合は、1年から3年の定住者として在留許可が与えられ、更新も可能です。在留資格が与えられた難民は、国民健康保険を申請したり、自治体の福祉支援を受けることもできます。また、日本で安定した生活が営めるようにと用意された日本語教育やオリエンテーション、職業あっせんなどを含む定住支援プログラムも受けることが可能になります。これらは、政府の委託を受けた「財団法人アジア福祉教育財団難民事業本部」で行っています。
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難民申請をして不認定となった場合ですが、不認定通知を受けてから7日以内に、入国管理局に再審査の申し立てができます。こちらの申し立てでも不認定になった場合は、6か月以内に裁判所に申請することで、さらなる審査の要求が可能です。なお、難民の基準を満たしていないものの、戦争や国内での紛争など、やむを得ない状況で母国を離れ、自国に帰れない人は、人道的配慮による在留特別許可が与えられることがあります。その場合も、難民認定手続きは必要です。
長期に滞在することを意識した支援とは
日本に住めるようになれば、それで終わりというのではなく、アフターフォローが必要なケースがほとんどといえます。日本では浸透している年金の仕組みがない国出身の方に、制度の内容をわかりやすく説明したり、地域のコミュニティの存在を知らせることで、日本での難民の生活は格段に向上する可能性があります。言葉だけでなく文化が違うことを配慮した継続支援が大事になります。
日本の難民認定が少ない理由
日本の難民認定は、他国と比べて少ないことがデータでも裏打ちされています。例えば、2022年の法務省発表資料によると、カナダや英国は60パーセント以上と高い認定率で、比較的低いとされるフランスでも17パーセント超です。一方、日本での認定率は0.7パーセントにとどまります。
日本で難民認定が少ない理由の一つは、認定基準にあるようです。日本は、難民の人権保障や問題解決のための国際協力を盛り込んだ難民条約に加盟しています。難民条約は、1951年に国連で採択され、日本は1981年に加入しました。この難民条約は、具体的な基準などが明記されておらず、条約の解釈は各国にゆだねられている形です。そのため、加盟している国それぞれ、または地域により解釈が異なることがあり、同じ状況の難民でも、ある国では認定されるのに対し、別の国では不認定になるという状況が発生しています。日本では条約を厳しく解釈しているため、難民申請をしても認定されないケースが多くなっていると考えられます。
難民認定が少ない別の要因として、手続きの問題が指摘されています。申請・認定の際には、難民の側に、自分が難民であることを証明する機会が与えられますが、必ずしも難民に公平な手続きが行われていないため、認定の少なさにつながっているようです。例えば、証拠書類は日本語での提出が求められたり、面接の際に母国語や自国の公用語以外の通訳が付くことで、うまく意図が伝わらなかったり、そもそも自力で申請するのが難しい状況が生じています。加えて、不認定となった場合に、その理由が十分に明らかにされないため、効果的な異議申し立てができないのも難点となっています。
難民認定の少なさは、私たち一人一人の関心の薄さとも関係している可能性があります。難民に対する問題意識を持つ人がそれほど多くはないため、政治の場で難民が議題に上ることが少なく、難民を積極的に受け入れようという機運に結び付いていないとされます。まずは、個人として会社として、難民に関心を持つことから始める必要があるかもしれません。
2022.12.15
外国人採用を成功させるためには異文化への理解がポイント
外国人採用を成功に導くためには、単に外国人を採用するだけでは十分ではありません。というのも、外国人は日本人とはもともと持っている文化的価値観が異なるため、日本人の社員と同じように接していると会社に馴染めずにストレスを感じて辞めてしまったりするからです。せっかく苦労して外国人を採用したのに失敗だった...
難民申請の手続きの難しさや認定が少ない現状を踏まえた対応が必要になる
難民が日本に住むためには、法務省の入国管理局に申請を行い、難民として認定される必要があります。日本は世界の主要国の中でも難民に認定される人が少ない国に入りますが、それは難民条約の解釈が厳しく、煩雑な手続きが求められることが関係しているようです。難民は、人の命に関係する問題です。一個人として、会社として難民の問題を直視する姿勢が大切になります。