コラム

技能実習制度の問題とは?解決策まで徹底解説

近年、人手不足が増加する日本において、技能実習生の受け入れが増加しており、技能実習生の受け入れは、社会貢献やビジネス機会の拡大といった可能性を高めることができます。また、新型コロナウィルスが収束に向かう今、インバウンドが増加し、ますますグローバル化していく必要があるなかで、技能実習制度の注目が高まっています。しかし、技能実習生に関する問題が数多く報道されており、受け入れは難しいと考える企業も多いのではないでしょうか。事前に技能実習生に関する問題点を把握することで、回避することができます。この記事では、技能実習制度に関する問題と解決策について解説します。

技能実習制度の問題を理解するための前提知識

技能実習制度の問題を解決するためには、制度の背景を理解することが大切です。ここでは、技能実習制度の目的と現状について解説します。

目的

技能実習制度の目的は、日本で培われた技能、技術または知識を学び、母国(開発途上地域)に移転すること、帰国後に習得した技能で国の発展に寄与するという国際貢献です。少子高齢化が進む日本では、人材不足を補う技能実習制度はなくてはならないものとなっていますが、本来の目的は人材不足解消とは別のところにあるため、注意が必要です。

滞在可能期間

技能実習制度は「技能移転」を目的とするため、永住することは出来ません。技能実習法には、最長5年と定められており、5年を過ぎると母国へ帰る必要があります。期間を過ぎての滞在は、不法滞在となります。ただ、新型コロナウィルスの影響により技能実習終了後も帰国出来ない技能実習生が増加したため、コロナ禍には特例措置を発令し、5年以上滞在可能となった技能実習生もいます。

受け入れ人数の増加

技能実習生の数は、2019年の410.972人をピークに新型コロナウィルスが影響し、2020年、2021年と在留人数の低下が見られました。一方で、2022年には324.940人の技能実習生が全国に在留しており、少しずつ元の水準に戻ってきていることが分かります。今後、技能実習生は更に増加することが予測できます。令和4年度末の在留資格「技能実習」総在留外国人国籍別構成比によると、ベトナム人が54.3%、インドネシア人が14.1%、フィリピン人が9.0%、中国人が8.9%でした。

外国人技能実習制度について

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技能実習の受け入れ対象職種・業種

技能実習生を受け入れている職種・業種は、2022年4月時点で85職種158作業あります。対象職種や業種は年々増加しており、最近ではインバウンド需要に対応するために「宿泊」が追加されました。2017年に導入された新制度では、基本人数枠が改正され、職員総数50人以下の事業に対する技能実習生受け入れ人数が細かく定められるようになりました。

外国人技能実習制度について 

「技能実習」から「特定技能」に変更可能に

第1号技能実習生(1年以内の在留)が第2.3号技能実習(1年以上、最大5年の在留)に移行し、その後、技能実習第2号または第3号を良好に修了することによって特定技能への移行が可能になります。

第1号技能実習生が第2.3号技能実習に移行可能であるかについては、厚生労働省が掲示している「移行対象職種」によって確認出来ます。移行対象職種は「職種」という分類と、「作業」という分類に分かれて掲示されており、必須業務が示されています。技能実習生受け入れ企業は、必須業務をはじめとする基準に必ず従う必要があるため、事前に確認することが重要です。

「技能実習」から「特定技能」への変更条件は、技能実習第2号または第3号を良好に修了することの他に、技能実習の職種・作業内容と、特定技能1号の業務に関連性があることが必要です。

出入国在留管理庁 新たな外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組

「技能実習制度廃止の動き」

現在、出入国在留管理庁は「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有職者会議」において技能実習制度を廃止し、人材確保と人材育成を目的とする新制度の創設、技能実習生の転職制限の緩和を検討すると提言しています。このことにより、技能実習制度の目的と実態の乖離の是正が期待されます。さらに、日本が働き先として選ばれる国となるよう「日本で習得した技能等を更に活かすことができる仕組みの構築が必要」だとして、受入れ見込み数・分野の設定のあり方や行政の指導監督体制、特定技能外国人への支援体制の整備についても検討を行うと述べています。

有職者会議は2023年秋をめどに具体的な施策について最終報告を取りまとめる予定であり、今後の動向に注目することが重要です。

技能実習生受け入れ方法

技能実習生の受け入れ方法は、企業単独型と団体管理型の2つに分かれます。団体管理型の場合、非営利の監理団体(事業協同組合、商工会等)が技能実習を受け入れ、参加の企業で技能自習を実施させるため、サポートを受けられる場合があります。ここでは、受け入れ方法と監理団体から受けられるサポートについて詳しく解説します。

企業単独型

企業単独型は、日本の企業が海外の現地法人、合弁企業や取引先企業の職員を受け入れて技能実習を実施するやり方です。初めに、海外支店等と雇用契約を結び、外国人技能実習機構に実習計画の作成や申請、認定を行って貰います。地方出入国在留管理局に在留資格認定証明書を申請、交付してもらうという流れを得て、技能実習生の入国が行われます。

団体管理型

団体管理型は、企業が技能実習生人数を申し込み、送出機関と監理団体が技能実習生の応募と選考、雇用契約を行います。企業は外国人技能実習機構に実習計画認定の申請を申し込み、認定後に、出入国在留監理超に在留資格を申請するという流れになります。

令和3年度の技能実習生の98.3%が団体管理型で受け入れられています。

外国人技能実習制度について 

監理団体のサポート

監理団体は、実習生が日本に入国するために、出入国在留管理庁に申請する必要書類を準備し、手続きを代行します。また、入国後は2か月の講習を行い、業務に関してのサポートを実施します。さらに、実習が始まった後も相談事が出来る体制を整えている団体が多いです。

監理団体を選ぶ際の注意点

監理団体は、手厚いサポートが受けられる一方、仲介手数料が発生します。そのため、受け入れ企業の中には、かかった手数料分、技能実習生の賃金を削るケースもあります。さらに、団体管理型をとる場合、「送出機関」と「監理団体」が関わるため、不正行為の実態を把握することが難しくなります。悪質な監理団体を避け、適切な監理団体を見つけることで、技能実習生の定着と成功に繋がります。

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技能実習制度の問題

技能実習生制度をめぐる問題は今も注目をされています。2022年の2月には建設会社で働いていたベトナム人技能実習生が2年間にわたって精神的・肉体的暴力を受けていたことが明らかになりました。ここでは、技能実習制度の問題を、技能実習生側と受け入れ企業側の2つの視点から紐解いていきます。

技能実習生が引き起こす問題

失踪する

技能実習生の失踪率は例年約3パーセントとなっています。しかし、技能実習生の母数は年々増加しており、母数が増えているため、失踪者も比例して増加していることが分かります。令和3年度における技能実習生失踪者数7,167人の内訳を見てみると、建設関係が約54%を占めており、農業関係が次に多いことが分かりました。職種別では、「とび」が最も多く21%、次に枠施工が続きました。

失踪の原因としては、技能実習期間終了後も日本で働きたいという考えから失踪するケースや、思ったよりも稼ぐことが出来なかったというケースがあげられます。

国は、失踪者の発生を防ぐことを目的として、令和元年11月に「失踪技能実習生を減少させるための施策」に基づき、失踪の発生が著しい送出機関について、改善が認められるまでの一定期間は新規の技能実習生の受け入れを停止することを発表しました。

技能実習生の失踪者数に関する各種統計

途中帰国する

母国に何らかの事情があった場合、途中帰国してしまうケースがあります。具体的には、身内の不幸、病気などがあげられます。技能実習生から、途中帰国したいと申し出があった場合、受け入れ監理団体や、企業は当事者と話し合いを行い、日本に残るよう説得することが多いです。しかし、申請をすれば手続き上、途中帰国をすることは可能です。

さらに、在留資格の技能実習1号から2号の更新が出来ないことも理由としてあげられます。技能実習2号の更新には、学科と実技の試験を受験することが必要です。この試験に合格しないと資格の更新が出来ないため、強制的に帰国せざる負えなくなります。

犯罪に関与する

技能実習生が事件を起こしてしまい、途中帰国になるケースがあります。なかでも、窃盗事件が最も多く発生しています。これは、技能実習生が経済的に困窮しているという背景が関係しています。また、技能実習生たちは同じ地域に住んでいることが多いため、友人関係に発展しやすいです。そのため、プライベートにおいてトラブルに繋がるケースが多くあります。とくに、お金の貸し借りが問題となり、仲間に誘われて犯罪に加担してしまう場合もあります。

受け入れ企業が引き起こす問題

低賃金、残業未払いの問題

技能実習制度では、賃金は最低賃金以上、労働時間も原則1日8時間、週40時間までと定められています。時間外労働や深夜勤務、休日勤務に関しても、割増賃金の支払いが求められます。団体管理型の技能実習生は、2か月間の講習を受ける必要が求められますが、講習終了後は、受け入れ先に正式な雇用となるため、労働関係法令に従って雇用する必要があります。

しかし、実際には法令が正しく守られていない事態が頻発しています。低賃金や残業未払いは結果として、技能実習生の失踪に繋がるため厳しく取り締まることが重要です。

ハラスメントの問題

実習生に対して、脅迫や暴行といった人権侵害を行うケースも報告されています。言葉が通じないことで、問題が明るみに出にくく、企業側としても問題に気が付かなったという場合もあります。さらに、仕事中に怪我をしたのに適切な治療を受けさせない「労災隠し」を行う企業も報告されています。

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問題の原因 

技能実習生、借金の返済が不可能

2021年度に実施された調査によると、来日前に母国で借金をしている技能実習生の割合は54.7%でした。国籍別でみると、カンボジアが最も多く、83.5%を占めており、発展途上国からの技能実習生は借金を抱えている割合が高いことが分かりました。

技能実習生は、高い手数料を払い、過度な借金を背負って日本に来ますが、期待とはほど遠い収入であるという現実から失踪や金銭トラブルに繋がっています。受け入れ企業側は、技能実習生の背景まで理解することによって、相互の良い関係構築を促すことが必要です。

技能実習生の支払い費用に関する実態調査の結果について

仲介業者による不正

団体管理型が90%以上を占めている日本では、仲介者による不正が問題となっています。主に、違約金の高額請求や訪問指導や監査が不適切であったこと、虚偽の報告書の提出などがあげられます。違約金は請求をすること自体が違法とされており、原則3年間という期限を定めた有期雇用契約のうちに、技能実習生が失踪や途中帰国したとしても請求することは出来ません。さらに、監理団体は監理費用として企業から報酬を貰っていますが、法律で定められている訪問指導や定期監査が行われていないという事例が報告されています。さらに、監理団体によって得意分野や取り扱う国が異なるため、企業側は適切な管理団体と契約することが大切です。

  

受け入れ企業の法令違反率は71.9%

厚生労働省が行った外国人技能実習生の実習実施者に対する調査では、労働基準関係法令違反が認められた実習実施者が71.9%であることが分かりました。このことから、問題が発生する原因に、法令が形骸化されていることがあげられます。技能実習生が労働基準監督機関に対して労働基準関係法令違反の是正を求めた件数は令和2年において107件でした。 今、制度の改善が行われなければ、日本は世界中の外国人労働者から実習先として選ばれなくなります。そのため、受け入れ企業の実態について厳しく取り締まることが必要です。

厚生労働省 外国人技能実習生に関する調査

技能実習制度問題解決に向けた国の動向

以上で紹介したように、技能実習制度には様々な問題が存在します。ここでは、問題解決に向けた日本政府の取り組みについて紹介します。

2017年に技能実習法が施行

1993年から、技能実習制度が始まりましたが、実習生を労働力を補充するための低賃金労働者と扱う企業が多く目立ち、2017年から「技能実習法(外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律)」が施行されました。

更に、技能実習法の施行に伴い、外国人技能実習機構(OTIT)が2017年に設立されました。これは、技能実習制度をまとめる組織で、「技能実習の適正な実施と技能実習生の保護を図る」ことを目的にしています。主に、監理団体の許可、技能実習計画の認定、実習実施者への報告要求、検査、届出の受理等と同時に、技能実習生に対する相談や支援が業務です。

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「責任ある外国人受け入れプラットフォーム」の設立

国際協力機構(JICA)と一般社団法人ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン(ASSC)が共同で事務局となり、2020年11月16日に「責任ある外国人受け入れプラットフォーム」が設立されました。この組織は、民間企業、地方自治体はじめ多くのステークホルダーが連携・協力を行うことによる外国労働者を巡る社会問題の解決を目指しています。

JP Mirai

受け入れ企業ができる問題解決法【3選】

技能実習生の受け入れを成功させることは、企業の生産性の向上や社会貢献に繋がります。ここでは、受け入れ企業が技能実習制度によるトラブルを防ぐ方法について詳しく紹介します。

労働環境の見直し

技能実習生を受け入れる企業は、事前に労働環境を見直しておくことが大切です。特に、「なぜ受け入れるのか」「どういった法令によるものなのか」を会社全体で理解しておくことで、長時間労働や低賃金といった問題が事前に防げるようになります。また、法令遵守に取り組む為に専門的な部署を設立することも効果的です。コンプライアンス関連文書を社員全員が確認できるように管理し、社内規定や人事制度を再考することも大切です。

技能実習生の中には、日本の働き方を知らない方もいます。最初の数か月に研修を行い、言語や文化の違う相手とのコミュニケーションの仕方を学ぶ機会を提供することも検討しましょう。

技能実習生が相談できる環境を整備する

技能実習生が失踪する原因の一つとしてよくある、不安事を抱え込んでしまうという問題には、相談できる体制を整えることが必要です。業務内容だけでなく、日頃の生活についてなど質問し、日本での暮らし方や文化について会話をすることで、理解を深めましょう。技能実習生が日本への理解を深めることによって、日本での仕事に順応しやすくなります。

仕事内容を明確に伝える

技能実習生は、言語の壁にぶつかってしまうことが問題としてあげられます。働き方や賃金などといった規則や規約について分かりやすく説明することが重要です。可能であれば、契約書は母国語に翻訳し、実習生が正しく理解できる体制をとることが必要です。高所作業や工事現場などといった危険の伴う仕事の場合は、事前に説明し、技能実習生が不安を感じる状況に陥ることのないようサポートすることが大切です。

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まとめ

技能実習生に関する問題を解決することで、企業の労働環境が是正され、気持ちよく働ける環境が整備されます。外国人の雇用は、日本人同士で共通認識とされていたものが通じなくるため、細かな配慮が必要とされます。日本全体で人手不足が本格化している現在、技能実習生の受け入れ体制を整えることで企業の更なるステップアップを目指しましょう。

加地 志帆 /外国人実習雇用士

この記事を書いた人

加地 志帆 /外国人実習雇用士

2019年にYOLO JAPANに入社し、外国人ユーザーの満足度向上を目指し、特にSNSを通じたプロモーション活動を担当。その経験を通じ現在は、企業が外国人採用をスムーズに進められるようヨロワークのウェブサイトにて情報発信。具体的には、外国人採用プロセスの支援、異文化理解を促進するコンテンツの提供。 2023年11月には外国人実習雇用士の資格を取得。企業と外国人が共存できる社会を目指すため外国人採用の知識を深めている。

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