近年、日本経済では慢性的な円安が続いています。これによる物価の上昇や給与の低下などの弊害は、日本人の生活を困窮させるだけでなく、日本で働きたい外国人を減少させる要因となっています。また、日本で働くことに魅力を感じないのは外国人だけでなく、日本人の海外進出志向も広がっていくことが懸念されています。
1ドル=160円にまで低下した円安が注目されていますが、円安は一部の大手企業の業績向上や賃金の上昇に貢献する一方で、日本は食料やエネルギーを輸入に依存していることから物価上昇が懸念されています。最近では「過度な円安」とも指摘され、そのマイナス面が強調されています。
採用支援会社「ASIA to JAPAN」の三瓶雅人社長は中国の大学生から、「年収300万円で暮らせるのか?」と質問され、日本企業の初任給や東京都内での生活費を説明するうちに学生の顔はみるみる曇っていきました。10年ほど前は日本企業の年収について説明すると学生は盛り上がりを見せていましたが、最近ではそれが無くなり、反応がなく不安な表情をする学生が多くなっています。それについて三瓶社長は「最近の円安の影響で中国沿岸部、台湾、韓国の優秀な学生が日本を選ばなくなっている」と述べています。
日本の賃金水準はかつてから先進国の中では低い部類であり、経済協力開発機構(OECD)の最新データによれば、米ドル換算の平均賃金は38カ国中25位となっています。バブル崩壊後も他の国々に次々と抜かれ、今ではスロベニアやリトアニアを下回る状況になりました。
現在の円安は、海外から見ると日本の賃金水準がさらに見劣りする結果となっており、高度人材、人手不足の現場で活躍する技能実習生の確保も難しくなってきています。このような状況が続けば、日本で働く魅力が薄れ、自然と日本人の視線も海外に向いてしまいます。
奈良県出身の福本赳司さんもその一例で、2023年11月にワーキングホリデービザを取得後、カナダのトロントに渡り、調理スタッフとしてレストランで働いています。カナダでは時給22カナダドル(約2,500円)で週に平均40時間働き、「働く時間に比べてかなりの収入が得られる」と述べています。チップを含めると、月収が40万円を超え、自炊をすることで生活費を抑え、渡航してから半年ほどで100万円以上の貯金を積むことができたとのことです。
日本ワーキング・ホリデー協会によると、円安の進行により海外で働き稼ぐことを考える人が増加しており、その中でも、最も人気があるのはオーストラリアとのことです。オーストラリア政府によると、ワーキングホリデービザを取得した日本人は2023年6月までの1年間で1万4,398人に上り、2006年以降で見ると最多の結果となりました。また、オーストラリアの最低時給は約2,300円で、飲食店やアパレル店、農場で働く人々が1年で100万〜200万円を貯めることも多いと報告されています。
しかし、本格的な海外での働き手となるための留学には逆風が吹いており、米国などの留学に必要な英語能力テストである「TOEFL iBT」の受験料は1回245ドルかかります。これは現在の為替相場では、日本円で約4万円近くに相当し、日本人に人気の英語テスト事業、TOEICの受験料(7,810円)の約5倍になります。
また、生活費を含めた関連費用も高騰しており、為替相場の変動による影響を受け、悔やむ声も聞こえて来ています。都内に住む20代の女性は、大学卒業後9月に控える韓国の語学学校への入学に向け、アルバイト生活を送っています。彼女の場合、1年間の学費と寮費は合わせて1千万ウォン強であり、為替相場の変動で円の価値が12%下落したことで、年間経費が15万円ほど増加して、約120万円になりました。海外留学支援の留学ジャーナルの担当者は、「日本の大学生の留学は減少傾向にある」と述べています。
日本は人口減少の中で、これまで外国からの人材獲得に注力してきましたが、経済改革の遅れや過度な円安の影響を大きく受けた現状、外国人の労働者に選ばれる国ではなくなってきていることが懸念されています。
参考:年収300万円じゃ働けない 円安ニッポン、見放す外国人 円安にもほどがある① – 日本経済新聞
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日本で働きたい外国人が減ってしまうのは悲しいだけでなく、労働力不足に悩む日本において、働き手が減ることは忌々しき事態ですよね。また、日本に魅力を感じなくなった日本人の海外進出が増えると、日本の優秀な人材も流出してしまいます。政府には、一刻も早い円安回復策を期待しています。